最近では鮒寿司をアレンジした様々な食品が登場していますが、今回はなんと鮒寿司で作ったゼリーが登場しました。
「発酵ゼリー」と聞くと、万田発酵のビューティープラスゼリー等をイメージされる方もおられるかと思いますが、今回紹介する発酵ゼリーは、鮒寿司の発酵ゼリー「ビワイチ発酵ゼリー」です。
ビワイチ発酵ゼリーのビワイチって何?
正式な商品名は「ビワイチ発酵ゼリー」です。
ぱっと聞いた感じだと、何のことなのかよく分かりませんよね?ビワイチって何?って。
ビワイチとは琵琶湖を自転車で1周することだそうです。「琵琶湖一周サイクリング認定書」や認定ステッカー等もあり、「輪の国びわ湖推進協議会」が運営しています。
国内で有名なサイクリングコースと言えば、しまなみ海道サイクリングが有名ですが、ワビイチもそれに並ぶくらい有名な国内を代表するサイクリングコースになります。距離はおよそ200km。
自転車だけでなく、徒歩やマラソン、自動車、バイク等、関西の人なら一度は何かで琵琶湖を一周したり、もしくは一周してみようと考えたことはあるのではないでしょうか。
ビワイチ発酵ゼリーとは?
そんなビワイチと鮒寿司発酵ゼリーとの間には何の関係があるのでしょうか?私も最初にこのニュースを目にした時は、まったく理解ができませんでした。
ビワイチ発酵ゼリーとは、滋賀県高島市の「高島地域雇用創造協議会」が、高島産の鮒寿司の飯(いい)等を使って作った発酵ゼリーです。
飲むゼリーなので、ビワイチで琵琶湖を自転車一周するサイクリストたちの栄養補給の為に飲んでもらおうということで、「ビワイチ発酵ゼリー」とネーミングしたそうです。
このゼリーは、滋賀県内のサイクルステーション等での販売が検討されています。価格は150gで280円。
またこの発酵ゼリーは、高島地域雇用創造協議会が、製造・販売をする業者を募集しており、この業者になれば、誰もが製造販売することができるそうです。
ビワイチ発酵ゼリーはマーケティングでつまずいている?
なんだかややこしくて分かりにくいですよね。もっとシンプルなコンセプトというか、マーケティングデザインができなかったのか。
ビワイチと言っても、おそらく関東の人はほとんど知らないし、発酵ゼリーとは名乗るけど鮒寿司は強く押し出さない。でも原材料に鮒寿司の飯(いい)は用いられている。
恐らく名称に鮒寿司を入れたら、敬遠する人もいるかもしれないから、このような名称にしたというのは理解できますが、鮒寿司を推したいのか、推したくないのか?サイクリスト向けの商品なのか?
ビワイチ以外で滋賀県に観光に来た人がお土産店で、「ビワイチ発酵ゼリー」を見つけても、はぁ?って感じだと思います。
ビワイチ発酵ゼリーの味は?
では肝心の味はどうなのでしょうか?なんと味はりんご味に仕上がっているようで、もはや鮒寿司でもなんでもありません。
もちろん飲みやすさを追求したのかと思いますが、マーケティング的に鮒寿司を押し出さないけど、原材料には鮒寿司の飯を使っているよ!みたいな中途半端な主張に加えて、味はりんご味となれば、色んなことがちぐはぐすぎてもはやただの飲むゼリーです。
発酵食品特有のこくを残して、スポーツ時に栄養補給としておいしく飲めるように味を調整したそうで、鮒寿司の飯以外にも、酢や酒粕等も用いているそうです。
鮒寿司原材料に使った商品展開の難しさ
鮒寿司は食文化的にも非常に珍しく、滋賀県の資産としてもとても大切な物です。
そんな鮒寿司を生かして滋賀をPRしたり、雇用を生み出す為の新商品等の開発は常に行われていますが、実際にはなかなか難しいのが現状というところでしょうか。
最近もカルビーが「鮒ずしポテトチップス」を滋賀県のご当地ポテチとして発売しましたが、その企画やコンセプトとパッケージの見た目のインパクトは絶大だったのですが、実際に食べてみたら、ただのすっぱむーちょだった。全く鮒寿司でない。もっとパンチの効いた味に仕上げてほしかった、等の声が溢れました。一言で言うと見かけ倒しというか、鮒寿司と名乗りたかっただけで、鮒寿司でもなにでもない、みたいな。
今回のビワイチ発酵ゼリーも、別に鮒寿司の飯を使わなくても同程度の物は作れたはずで、むしろ無理やり鮒寿司の飯を使った感じです。
もちろんこれは高島市が、市のPRや雇用創出の為に一生懸命考えて生み出された商品なので、これ自体は非常に素晴らしい取り組みであり、商品でもあるのですが、やはり製造して販売するからには、売れないと意味がありません。それも一時売れればよいのではなく、市場に定着して末永く愛される滋賀の名産品になるような。
ただ個人的には鮒寿司をアレンジした食品でベストセラーを作るのは非常に難しいのではないのかなと思います。
まさに今回のビワイチ発酵ゼリーがそうであるように、鮒寿司を押し出せば売れるのか、売れないのか、この設計が非常に難しいです。
最近の滋賀のヒット商品と言えば、クラブハリエのバームクーヘンでしょうか。こちらの商品はもはや全国区となり、県外から多くの人が訪れる「クラブハリエ ラコリーナ」というちょっとしたディズニーランドみたいな大きな施設までもできてしまいました。
ではこのクラブハリエの商品の一部の原材料に鮒寿司の飯を用いたらどうなのでしょうか?
恐らく商品開発の段階でこのようなアイデアは何度となく出てきたり、持ち込まれたりしているはずですが実現していません。つまりそういうことなんです。
鮒寿司へのブリッジ食品としての存在
とはいえ、鮒ずしをそのまま食べる人は年々減ってきています。
今の40代以上の世代が亡くなったら、はたして鮒寿司を食べたいと思う人はどれくらいになるのでしょうか。
絶滅の危機に瀕しているニゴロブナを守って、製法等を語り継いで、なんとか鮒寿司の製造を続けていったとしても、それを購入しようとする人がいなくなれば、鮒寿司の食文化は終わってしまいます。
恐らく、自家製鮒寿司の文化はもうあと数十年で無くなるでしょう。そこまでして自宅で鮒寿司を漬けようとする家庭はなくなるはずです。
となると、鮒寿司は売れないといけないのです。
今の20代未満の若者が将来鮒寿司を食べるようになるのか?と言えば、恐らくそれもないでしょう。
そう考えると、このビワイチ発酵ゼリー等、もはや鮒寿司でもなんでもないのですが、少しでも鮒寿司に興味を持ってもらって、その中から幾人かの人が、本物の鮒寿司を食べてみようと思って、鮒寿司のファンになって鮒寿司の製造販売が引き継がれていく、恐らくそのようにしていくしか鮒寿司が未来永劫と続いていくことは不可能かと思います。
鮒寿司は世界へはばたくべき
日本国内で鮒寿司が消費されなくなったら、後は世界への発信しかありません。
発酵食品の文化は日本が世界に誇る食文化です。その中でも鮒寿司は格別です。世界中を見渡しても、鮒寿司は滋賀県でしか作ることができません。
鮒寿司が世界規模で電波することに成功すれば、需要と供給のバランスが保たれ、鮒寿司の食文化は永遠と引き継がれていくかと思います。
鮒寿司が未来永劫に続いていく為の消費を、日本国内だけで生み出すことはほぼ不可能です。もし世界に発信することができず、日本国内でのみのドメスティックな流通で終わってしまえば、本当に鮒寿司はあと数十年で絶滅してしまうかもしれません。
滋賀県は今も一生懸命県外に鮒寿司のアピールをしていますが、これにはどうしても限界があると思います。
この究極の嗜好品である鮒寿司を、国内向けに発信し続けたとしても、滋賀の鮒寿司製造供給とバランスするほどの需要を生み出すことはほぼ不可能です。
本当に戦略的に世界へ鮒寿司のPRをしないと、大切な鮒寿司の食文化を失ってしまうかもしれません。
三日月大造さん、早く気づいてください。もうタイムリミットはそこまで迫っています。鮒寿司の食文化を守っていくには、圧倒的なリーダーシップが必要なのです。