ふなずしについて、さまざまな角度からデータを分析していきます。
ふなずしを食べたことがあるか?
滋賀県人なら誰も知ってはいると思いますが、誰もが食べたことがあるかというとそういうわけではありません。
では滋賀県人に限定して、食べたことのある人はどれくらいいるのでしょうか?
このグラフを見ると以外と食べているように見えるかもしれませんが、このデータ自体が20年程前のものになるので、現在はかなり減っているのではないでしょうか?
滋賀県はここ数十年で京阪神地区のベッドタウンとして人口が急増していることもあり、またふなずしを漬けることができたお年寄りの方々が高齢になり世代が変わっていくことによって、滋賀県人でさえふなずしを食したことがある人は、急激に減っていっていると思われます。
ふなずしは好き?嫌い?
こちらも滋賀県人に限定した、ふなずしが「好き」「普通」「嫌い」を聞いたデータです。
調査対象者を滋賀県人に限定しているのは、他都道府県の人だとそもそもふなずし自体を知らないので、滋賀県人に限定したものになっていると思われます。
こちらのデータも20年ほど前のデータになるので、現在ではかなりデータ構成が変わってきていると思われますが、滋賀県人なら誰もがふなずしを好きという訳ではないようです。
滋賀の郷土料理で、昔はどこの家庭でも普通に食していたふなずしですが、近年はニゴロブナの減少や生産家庭の減少等から価格が高騰しており、ふなずしは希少性の高い物となっていることから、この年代別嗜好の変化は、経年調査をすれば、面白いデータが見えてきそうですね。
それにしても10代の嫌いが100%というのは、さすがに何かの間違いなのでは?
滋賀ではどれくらいふなずしを漬けている?
滋賀の郷土料理といわれているふなずしですが、では一般の家庭ではどのくらい漬けられているのでしょうか?
滋賀は琵琶湖を中心に、時計回りに、湖北/湖東/湖南/湖西というように地域が分かれています。同じ滋賀でも地域によって気候もかなり変わり、食文化等も違いがあります。例えば湖北は日本有数の豪雪地帯で、積雪量のギネス記録は滋賀県の伊吹山と言われているくらい雪が降りますが、一方の湖南ではそこまで雪はふりません。
このグラフを見ると、湖東地方は他の地方よりもふなずしを自宅で漬けている比率が高いようです。これはおそらく湖東地方には近江盆地があり、近江米の田園地帯があり、またふなずしを発酵させるに適した、高温多湿な気候環境等も影響があると思われます。
ただし、このデータもまた20年以上前のデータになるので、今現在では滋賀県の全域において、自宅でふなずしを漬けている家庭はかなり減っていると思われます。
なれずしの種類
- ニゴロブナ雌
やはり圧倒的No1。皆さんがふなずしと聞いてイメージする、おなじみのあのオレンジ色の卵を有しているのは雌のフナですね。 - ニゴロブナの雄
雄は卵がないのであまり人気がありませんが、身の部分は噛みごたえと甘味があり、ふなずしツウの中には雄を好む方もいるようです。 - その他のフナ
これはゲンゴロウブナやギンブナ等ではないでしょうか。近年のニゴロブナの漁獲量減少や、ニゴロブナがあまり獲れなかった年等は、これらの他のフナを漬けたりもするようです。 - ハス
琵琶湖に生息する魚で体長は12㎝程度と鮒よりも小さいですが、鮒すしと同じ製法で作られハス寿司ともいわれます。環境省のレッドリスト絶滅危惧Ⅱ類とされているようです。
その他の魚種いずれも琵琶湖や琵琶湖に流れ込む川に生息する魚ですが、サバのなれずしが以外と食されています。これはおそらく鯖街道の影響かと思われます。
ふなずしをいつ食べているのか?
では滋賀県民はいつふなずしを食べているのでしょうか?毎日食べているのか、めったに食べないのか?
このデータは「なれずしを食べる機会」としてアンケート調査をしていますが、このなれずしはほぼふなずしと考えてよいでしょう。
データ自体は今から20年以上前に調査されたものなので、現在において滋賀といえど日常食としてふなずしを食している家庭はかなり少ないと思われます。
祭礼食というのは、地域のお祭りや神事等の席でふなずしが振舞われることです。祭りや神事は途絶えることなく脈々と続いていることからも、滋賀県民といえど今後はふなずしは祭礼食などでしか口にすることができなくなってくるかもしれません。
ふなずしは臭い?
ふなずしと言えば、あの独特の臭い。あの臭いが苦手で食べられない人もいますが、あの臭いを数値化すると、どれくらいの臭さなのでしょうか?
皆さんおなじみの他の臭い食べ物との比較です。
このデータは、におい濃度測定器「アラバスター」を用いて計測されたものです。
このデータからも、想像を絶する臭さというほどでもなく、他の臭いのきつい食べ物ともさほど変わらない程度の臭いです。
ちなみにくさやの焼きたてをアラバスターで計測すると、1267という非常に高い数値になります。
またよくテレビ等で紹介されるスウェーデンのニシンの塩漬けの缶詰「シュールストレミング」はなんと8070!!そう考えると、ふなずしは耐えられない臭さほどではなく、慣れたら誰でもおいしく食べれるものです。
フナの漁獲量
琵琶湖のある滋賀県では様々ななれずしが作られてきましたが、やはり圧倒的.No1はふなずしですよね。ふなずしはニゴロブナを用いて作られますが、そのニゴロブナの漁獲量が年々減ってきていることから、ふなずしは希少価値の高い物となり、価格も高騰しています。
では実際にどの程度フナの漁獲量は減ってきているのでしょうか?
こうやって見ると、凄い減り方ですよね。
1987年から、ニゴロブナとその他フナで分けての統計が開始されたので、それまではフナの総数というデータになっています。その他フナはギンブナやゲンゴロウブナになります。
なぜここまで減ってきたかというと、
水質汚染
琵琶湖の水質は高度経済成長期に、県民の日常生活の変化や、工場誘致に伴う経済活動の発展により水質が悪化しました。
また当時は下水道の整備や排水規制等も整備されていませんでした。
- 生活排水
- 農業廃水
- 工場排水
- 富栄養化
外来魚
近年、琵琶湖でのバスフィッシングは人気のレジャーとなっていますが、一方外来種がニゴロブナやアユ等の在来種を食い荒らすという問題が発生しており、ふなずしの原材料となるニゴロブナの激減も外来魚の影響を受けています。主にブラックバスやブルーギル等は繁殖能力が高く、琵琶湖に多く生息するようになりました。
ふなずしの原材料となる鮒の種類
近年、ニゴロブナの激減に伴い、ふなずしの価格は高騰しています。そのような中、ニゴロブナ以外の、琵琶湖に生息するゲンゴロウブナやマブナを用いたふなずしも製造販売されていますが、海外から輸入されたフナを利用する製造者も出始めてきています。
これは平成5年に滋賀県内のふなずし製造・販売の業者41店舗に聞いたアンケート結果です。30%の業者は、輸入フナの利用は考えられないとしている一方、すでに輸入ブナを使っている業者は25パーセントおり、今後の利用を検討している業者も30%にのぼりました。
ニゴロブナもしくは、琵琶湖で獲れたゲンゴロウブナやマブナでのふなずしにこだわる気持ちもわかりますが、こだわりのあまり価格が高騰しすぎて、多くの人の口にふなずしが入らないようになっては、ふなずし市場が縮小の一途をたどり、いつしかふなずし自体がこの世から絶滅してしまうかもしれません。
ふなずしの栄養
ふなずしは最近ではその栄養価にも注目されています。乳酸菌の効果で整腸作用を高めます。腸内環境は健康の基本でもあるので、ふなずしが健康食品として注目されるのも納得です。
発酵食品はその発酵前の元の食材よりも栄養価が高くなるという傾向があります。発酵食品でもあるふなずしももちろん発酵前後での栄養価には変化が出ています。
生のフナも発酵させてふなずしにすることにより、タンパク質は約1.4倍に、カルシウムはなんと10倍にもなります。同じ食材でもここまでの変化が出るところが発酵食品のすばらしさですね。
カルシウムが10倍になる理由は、ふなずしにして発酵させることにより、フナの背骨の不要性カルシウムが乳酸菌の作用で柔らかくなり骨ごと食べられるからです。ふなずしの身の部分の上部中央に、若干硬い背骨の部分があることを、食した経験のある人なら知っていると思います。あれをそのまま食べることができるので、カルシウムの摂取量が多くなるんですね。もちろんふなずしは頭からしっぽまで全て捨てることなく食べられるので、他の魚料理よりもカルシウムを効率よく摂取できることは理解しやすいと思います。
しかもこのふなずしのカルシウムは発酵により乳酸カルシウムとなり小腸で吸収されやすいといった特性を持ち合わせています。
栄養にまつわる言い伝え
滋賀で生まれ育ち、小さい頃から気づけばふなずしが食卓にあったという滋賀県民なら、ふなずしは単なる食品ではなく、健康にも良い、といって食べさせられたこともあるかと思います。私も小さい頃、おばあさんにふなずしは体によいからと言い聞かされて食べ始め、大好きになりました。その言い伝え的効能は様々ですが、
- 夏バテ等疲れがとれる。
- お腹が痛い時にたべるとよい。
- 食欲がない時に食べるとよい。
- 風邪をひきにくくなる。もしくは風邪が治る。
等、滋賀県民ならおばあさんにこのようなことを言われてふなずしを食べてきた人は多いのではないでしょうか。
科学的に実証されているかは定かではないですが、乳酸菌は腸内環境に良い影響を与えることからも、全ての健康の元である腸内環境に良い影響を及ぼす乳酸菌を多く含んだふなずしの効能は言い伝えの通り、健康的にも非常に良い食品なのかと思われます。
味、栄養源、保存性、健康面等、1000年以上続いている食文化にはそれなりの理由があるのだなーと思う今日この頃です。